はじめに
AI・HPC 需要の急増に伴い、従来の空冷では対応できないレベルの熱密度がデータセンターに押し寄せています。こうした背景から、**OCP(Open Compute Project)**では液冷技術、特に Direct Liquid Cooling(DLC) の標準化と普及を強化しています。本記事では、2025〜2026 年にかけての OCP 動向と DLC 技術の最新トレンドを整理します。
1. なぜ DLC が OCP で重要テーマになっているのか
- AI アクセラレータの TDP が 1,000W → 2,000W 以上へ(2030年予測)
- 空冷・単相液冷では限界 → 二相冷却・低GWP冷媒などの高度技術が必要
- OCP が標準化を進めることで、相互運用性・リスク低減・市場の民主化が進む
参考:OCP の DLC 推進は、冷却方式の標準化、QDC(クイックディスコネクト)、CDU仕様、2P(Two-Phase)冷却のワークグループなどを含む(CEJN や各社コントリビューションより)。
2. Direct Liquid Cooling(DLC)とは
DLC は、冷媒またはクーラントを直接サーバーボードの冷却プレートに循環させ、チップの発熱を効率的に除去する技術。
主な区分
- 1P-DLC(単相冷却:Single-Phase)
安定性・扱いやすさが強み。水冷 / 不活性液などを利用。 - 2P-DLC(二相冷却:Two-Phase)
冷媒の「蒸発潜熱」を利用し極めて高い熱輸送効率。高TDP に有利。
3. 注目される最新 DLC 技術トレンド(OCP文脈)
▼ 3-1 Pumped Two-Phase(P2P)DLC の台頭
2025年〜2026年で最も注目度が高いのがこれ。
- 低~中圧の 低GWP冷媒を利用
- 蒸発潜熱により TDP 1,000〜2,000W級 GPUにも対応
- PUE・WUE・TCO 改善に寄与
- Intel や Vertiv、Accelsius などが積極的にデモと仕様公開を実施
- OCP の「オープンエコシステム化」によるコネクタ・CDU の標準化も進行
【参考】
Whitepaper: Pumped Two-Phase Refrigerant-Based Direct Liquid Cooling for Next Generation AI Clusters(Intel / Vertiv / Parker / Accelsius)より、2P-DLC は高密度 AI ラックに特に有効。
▼ 3-2 冷却インターフェースの標準化(Cold Plate / QD / Manifold)
OCP「Cooling Environments – Cold Plate Project」では、以下を標準化中:
- コールドプレート形状・接続仕様
- チューブ/マニホールド/クイックディスコネクト
- ラックレベル CDU・分配マニホールド
これにより、DLC の相互運用性が向上し、異なるベンダー機器を同一ラックに混在しやすくなる。
▼ 3-3 30℃ クーラント時代の到来(Meta主導)
Meta は OCP と共同で “耐久性のある30℃クーラント温度” を提唱。
- 高温クーラントでも安定稼働できるサーバー設計へ
- データセンターの空調負荷を削減し、省エネ性・持続可能性の向上
- 冷却塔・熱再利用の高度化と親和性が高い
▼ 3-4 AI向けデータセンターの“完全液冷ラック”化
- Dell IR7000(ORv3ベース)は DLC と高密度 GPU(H100/H200世代)を前提
- OCP ORv3 では、48V給電 × 高密度サーバ × DLC が標準化の方向
- ラック外 CDU、モジュラー冷却ユニット、熱再利用まで体系化
4. DLC 導入のメリットとデメリット
メリット
- 高TDP GPUを確実に冷却:AIクラスタ向けに必須化
- 空冷比で電力削減(PUE改善)
- 高温クーラントにより施設側 CAPEX を削減
- ノードの高密度化・ラックあたりコア数増
デメリット / 課題
- 初期設計の複雑さ(配管・CDU・漏れ対策)
- 冷媒選定(PFAS規制の影響)
- ベンダー間インターフェース不統一(→ OCP標準化が解決しつつある)
5. これからの OCP × DLC の方向性(2026〜2030)
- 液冷はもはやオプションではなく“標準”へ
- ORv3世代で、液冷前提のモジュラーラック普及
- P2P・Immersion・Hybrid の共存と最適配置
- 台湾を中心とした OCP エコシステムで量産性向上
- Heat Reuse(熱再利用)推進によるデータセンターの脱炭素化
まとめ
OCP の取り組みは、液冷の「特殊装備」から「標準インフラ」への変化を加速しています。特に AI 用高TDP GPU が主役になる 2026〜2030 年のデータセンターにおいて、DLC は必須技術となるでしょう。
P2P 冷却、30℃クーラント、ORv3標準など、多様なコンポーネントが OCP エコシステムにより統合され、これまでにないスピードで液冷導入が進んでいます。OCPJにおいても、DLCをすでに導入されている企業様や各種メーカ様が存在すると思いますので、リアルな情報を共有頂けると幸いです。
KDDI 加藤真人